3-5. しかし、ユダが口をはさみました。 「忘れたんですか、お父さん。 『弟といっしょでなければ来てはならない』ってあの人が言ったのは、決してただの脅しじゃないですよ。 ベニヤミンがいっしょでなきゃ、あそこへは行けません。」
10. 初めから、お願いしたとおりにしてくだされば、今ごろはもう、穀物を持ってエジプトから帰っているはずですよ。」
11. とうとうイスラエルも折れました。 「どうしても連れて行くのなら、せめてこうしてくれ。 ろばにこの国の最良の産物を積むんだ。 その総理大臣とやらへの贈り物にな。 香油、はち蜜、香料、没薬、くるみ、アーモンドなどを持って行くといい。
12. 金は代金の二倍を持って行けよ。 このまえ袋の口にあった分も、持って行って返せ。あれはきっと、何かのまちがいだったのだろう。
13. さあ、弟を連れて行きなさい。
14. その人の前に立つ時、全能の神様が守ってくださり、シメオンが自由にされ、ベニヤミンも無事に帰れますように。もしこの二人が死ぬことにでもなったら……、ま、それもしかたあるまい。 ただじっと耐えるだけだ。」
15. 彼らは贈り物と二倍の代金を持って、エジプトのヨセフのもとへ出かけました。
16. 今度はベニヤミンもいっしょです。 ヨセフはそれを見ると、家の執事に命じました。 「この人たちは昼食を私といっしょにする。 家へお連れして、盛大な宴会の用意をしなさい。」
17. 執事は言われたとおり、一同をヨセフの屋敷へ案内しました。
18. びっくりしたのは兄弟たちです。 まさか、ヨセフの屋敷へ連れて行かれようとは思ってもみませんでしたから、どうなることかと心配でなりません。思いあたることを、お互いにひそひそ話し合うばかりです。「こりゃあきっと、袋に返してあったあの金のせいだぞ。 あの金を盗んだとでも言うつもりだろう。 言いがかりをつけてわれわれを捕まえ、奴隷にしようってのさ。 ろばから何から、ぜんぶ取り上げる魂胆だな。」
19. そうこうするうち屋敷の入口に着きました。 ぐずぐずできません。 一同はすぐ執事のところへ行きました。
20. 「あのー、お話があるのですが。 このまえ食糧を買いにこちらへまいりまして、
21. 帰る途中、ある所で夜を過ごしたのです。 ところが、袋を開けると、代金としてお払いしたはずの金が入っておりました。 これがその代金です。 お返ししようと持ってまいりました。
22. 今回の分は、別にちゃんと用意してあります。 あれ以来、どうしてこれが袋の中にまぎれ込んでしまったのかと、皆で首をひねっておりました。」
23. 「ご心配には及びません。 代金は確かにいただきましたよ。きっと、あなたがたの神様、つまりあなたがたのご先祖の神様が、入れておかれたのでしょう。 不思議なこともあるものですね。」こう言うと、執事はシメオンを釈放し、兄弟たちのところへ連れて来ました。
24. 一同は屋敷に招き入れられ、足を洗う水を与えられました。 ろばも餌をもらいました。
25. お昼にはヨセフが来るということです。 一同はすぐ贈り物を渡せるよう、抜かりなく用意しました。 なんでも、昼食をいっしょにするらしいのです。
26. ヨセフが戻りました。 一同はていねいにおじぎをし、贈り物を差し出しました。
27. ヨセフは皆にその後のことを尋ねました。 「で、おまえたちの父親はどうしているかね。 この前もちょっと聞いたが、まだ達者かな?」
28. 「はい、おかげさまで元気でおります。」 そう言って、もう一度おじぎをしました。
29. ヨセフは弟ベニヤミンの顔をじっと見つめました。 「これが末の弟か。 そうか、この子がなあ。 どうだ、疲れてはいないか? 神様がおまえに目をかけてくださるように。」
30. ここまで言うのがやっとでした。 あまりのなつかしさに胸がいっぱいになり、涙がこみ上げてきたのです。 あわてて部屋を出て寝室に駆け込み、思いきり泣きました。