15. ところが、なかなか兄たちが見つかりません。 野原のあたりをうろうろしていると、一人の人に呼び止められました。「おまえさん、だれを捜してるのかね。」
16. 「兄と羊の群れです。 見かけませんでしたか?」
17. 「ああ、あの人たちか。 だったら、ここにはもういないよ。確かドタンに行くとか言ってたな。」 ヨセフはドタンまであとを追って行き、ようやく彼らを見つけました。
18. 兄たちも、まだ遠くにいるうちから、いち早く彼の姿を認めました。 ヨセフが一人でやって来る。 またとないチャンスです。 そこで、大へんな相談を始めました。 殺してしまおうというのです。
19-20. 「あの大ぼらふきが来るぞ。 あんなやつ、殺して井戸に投げ込んじまおう。 おやじには獣に食われたとでも言えばいい。 例のすばらしい夢がどうなるか見たいもんだ。」
21-22. けれども、ルベンはヨセフを助けたかったので、異議を唱えました。「殺すこともないじゃないか。 血を流すのはよくないぜ。 生きたまま井戸に投げ込んどけば、おれたちが手を下さなくても自然に死ぬさ。」 こうしておけば、あとで井戸から出し、父のもとに帰してやれます。
23. そこへヨセフが来ました。 彼らは、やにわに弟の派手な飾りつきの上着をはぎ取り、
24. 空っぽの井戸に投げ込みました。
25. それから、腰をおろして夕食にしたのですが、ふと気がつくと、遠くから、らくだの一隊がやって来るところです。 おそらく樹脂や香料、薬草類をギルアデからエジプトに運ぶ、イシュマエル人の隊商でしょう。
26-27. 「おい、見ろよ。」 ユダが叫びました。 「イシュマエル人が来るぞ。 ヨセフのやつを売り飛ばすってのはどうだい。 殺すのは、何てったって気持ちのいいもんじゃない。 自分たちの手で殺したりすれば、あとでいやな思いをするだろうよ。 虫の好かないやつだけど、やっぱり弟なんだからな。」 みな賛成です。
28. そこで隊商がそばまで来ると、ヨセフを井戸から引っ張り上げ、銀貨二十枚で売り飛ばしました。 かわいそうに、ヨセフはエジプトへ連れて行かれるのです。
29. 〔このとき居合わせなかった〕ルベンは、こんなことになっていようとは夢にも思いません。 しばらくして戻ると、ヨセフを井戸から出そうとしました。 ところが、ヨセフの影も形もありません。 どうしたらいいのでしょう。 あまりのことに服を引き裂き、嘆くばかりです。
30. 「あの子がいなくなってしまった。 いったいどこへ捜しに行ったらいいのだ。」 ルベンは泣いて訴えるのでした。
31. さて、兄弟たちは山羊を殺し、その血をヨセフの上着に振りかけました。
32. それを何くわぬ顔で父親のところへ持って行き、だれのものか調べてほしいと頼みました。「これを野原で見つけたんです。 ヨセフの上着みたいですが、違いますか。」
33. ひと目見れば、だれのものかはわかります。父親はすすり上げながら言いました。 「ああ、まちがいない。 ヨセフの上着だよ。 あの子は野獣に食われてしまったんだ。 ずたずたにかみ裂かれてな……。」
34. イスラエルは胸もつぶれる思いで服を引き裂き、麻布を着て、何週間ものあいだ息子の死を嘆き悲しむのでした。