22. そばへ行ったヤコブを、イサクは手でなで回しながら、ひとり言のようにつぶやきます。「声はヤコブそっくりだが、この手はどう考えてもエサウの手だ。」
23. まんまと計略にひっかかりました。 もう祝福はこっちのものです。
24. 「おまえ、ほんとうにエサウかい?」「ええ、もちろんですとも。」
25. 「じゃあ鹿の肉を持っておいで。 それを食べて、心からおまえを祝福しよう。」ヤコブが料理を持って来ると、イサクは喜んで食べ、いっしょに持って来たぶどう酒も飲みます。
26. 「さあここへ来て、わしにキスしてくれ。」
27-29. ヤコブは父のそばへ行き、頬にキスをします。 イサクは息子の服のにおいをかぎ、ついにエサウだと思い込むのです。「わが子の体は、神様の恵みをたっぷりいただいた大地と野原の快いにおいでいっぱいだ。 神様がいつも十分な雨を降らせ、豊かな収穫と新しいぶどう酒を与えてくださいますように。 たくさんの国がおまえの奴隷となるだろう。 おまえは兄弟たちの主人となる。 親類中がおまえに腰をかがめ、頭を下げる。 おまえをのろう者はみなのろわれ、おまえを祝福する者はすべて祝福される。」
30. イサクがヤコブを祝福し、ヤコブがまさに部屋を出ようとした時、エサウが狩りから戻りました。
31. 彼もまた父の好物の料理を用意し、急いで持って来たのです。「さあさあ、お父さん、鹿の肉を持って来ましたよ。 起き上がって食べてください。 そのあとで、約束どおりぼくを祝福してください。」
32. 「何だと、おまえはいったいだれだ。」「いやだなあ、ぼくですよ。 長男のエサウですよ。」
33. なんということでしょう。 イサクは見る間にぶるぶる震えだしました。「じゃあ、ついさっき鹿の肉を持って来たのはだれだったのだ。わしはそれを食べて、その男を祝福してしまった。 いったん祝福した以上、今さら取り消すことはできない。」
34. あまりのショックに、エサウは気が動転してしまいました。 わあわあ泣きわめくばかりです。「そんな、ひどいですよ、お父さん。 ぼくを、ぼくを祝福してください。 ね、後生だから。」
35. 「かわいそうだが、聞いてやれないな。 おまえの弟がわしをだましたのだ。 そして、おまえの祝福を奪ってしまった。」
36. 「ふん、ヤコブのやつめ、全く名前どおりだぜ。 『だます者』〔ヤコブという名には、この意味もある〕とは、よく言ったもんだ。 やつは長男の権利も奪った。 それじゃ足りず、今度は祝福を盗んだってわけか。 お父さん、念のため聞きますが、祝福し残したことは、一つもないんですか。」
37. 「すまんが、わしはあれを、おまえの主人にしてしまった。 おまえばかりじゃない。 ほかの親類の者もみな、あれの召使になるようにと祈った。 穀物やぶどう酒が豊かに与えられるとも保証してしまったし……、ほかにいったい何が残っているというのだ。」
38. 「それじゃあ、ぼくにはもう何も祝福が残っていないとおっしゃるのですか。 あんまりだ、お父さん。 何とかならないんですか。 ねえ、ぼくも祝福してくださいよ。」イサクは何と言ってよいかわかりません。 エサウは泣き続けます。
39-40. 「おまえは一生苦労が絶えないだろう。 自分の道を剣で切り開いていかなければならないからな。 しばらくは弟に仕えるが、結局はたもとを分かち、自由になるだろう。」