8. 「よく気のつく子だね。 そうしておくれ。」 王女の返事を聞いて、少女はうれしくてたまりません。 家へ飛んで帰り、母親を呼んで来ました。
9. 「お礼は十分しますから、この子を連れて行って、私の子として育ててください。」 王女は子供の実の母親とも知らず頼みました。 もう何の遠慮もいりません。 彼女は子供を抱いて家へ帰りました。
10. やがて、その子は大きくなり、養子として正式に、王女のやしきへ引き取られました。 王女は彼をモーセ〔「引き出す」の意〕と名づけました。 水の中から引き出した子供だからです。
11. それから何年かたちました。 モーセはりっぱに成長し、一人前の大人になっていました。 ある日、彼は同胞のヘブル人を訪ねようと外出したのです。 ところが、目にしたのは、あまりにもひどい有様でした。 初めて同胞の苦しみを知ったモーセの血は騒ぎました。 ちょうどその時、エジプト人がヘブル人を地べたになぐり倒しているところへ、出くわしたのです。 自分と同じヘブル人がやられている。 そう思うと見過ごせません。
12. 急いであたりを見回し、だれも見ていないのを確かめると、そのエジプト人を殺し、死体を砂の中に隠しました。
13. 次の日もまた、ヘブル人を訪ねましたが、今度はヘブル人同士でけんかしています。 「同じヘブル人なのに仲間をなぐるとは、いったいどういうつもりだ。」 モーセは悪いほうの男を責めました。
14. 男も負けてはいません。 「ふん、いらぬおせっかいよ。 だいたい、そういうおまえこそ何者だい。 まるで王様か裁判官みたいな口をきくじゃないか。 きのうのエジプト人だけじゃ足りず、おれまで殺そうってのかい。」 あんなに用心したのに、きのうの事がばれているのです。 モーセは非常に不安になりました。
15. そして心配したとおり、エジプト人殺害の話は、王の耳にも達したのです。 王は、「直ちにモーセを逮捕し、処刑せよ」と命じました。 絶体絶命です。 モーセはミデヤン(アラビヤ半島の北西部、アカバ湾沿岸)の地へ逃げることにしました。 こうして、とある井戸のかたわらに座っていると、
16. ミデヤンの祭司の娘が七人、水くみにやって来ました。父親の羊の群れに飲ませるのです。 ところが、いよいよ水おけに水をくみ始めると、
17. あとから来た羊飼いたちが、娘たちを追い払いにかかるではありませんか。 そこで、モーセは彼女らに手を貸し、群れに水を飲ませました。
18. 家へ戻った娘たちに、父親のレウエルが尋ねました。 「おや、きょうはばかに早いじゃないか。 どうしたんだね。」
19. 「いつものように羊飼いたちがじゃましようとしたら、あるエジプト人が助けてくれたの。 羊飼いを追い払って、羊に飲ませる水までくんでくれたんです。」
20. 「ほほう、親切な人だな。 で、その人はどこにいる? ちゃんとお連れしたんだろうね。 さ、早く入っていただいて、お食事を差し上げなさい。」
21. レウエルにいっしょに住んでほしいと言われ、モーセも申し出を受け入れることにしました。 レウエルは娘の一人チッポラを妻として与えました。
22. やがて子供が生まれ、ゲルショム〔「外国人」の意〕と名づけました。 モーセが、「私はこの国では外国人だ」と言ったからです。
23. 何年かして、エジプトの王が死にました。 しかし、イスラエル人は楽になりません。 相変わらず奴隷としてこき使われ、うめき苦しんでいました。 あまりの苦しみに耐えかね、泣く泣く神様に助けを求めるのでした。 その悲痛な叫びは天まで届き、