15. それで、その地方のある農夫に頼み込み、畑で豚を飼う仕事をもらいました。
16. あまりのひもじさに、豚のえさのいなご豆さえ食べたいほどでしたが、だれも食べる物をくれません。
17. こんな毎日を送るうち、彼もやっと目が覚めました。 『あーあ、家なら雇い人にだって、あり余るほど食べ物があるだろうな……。 なのにおれときたら、なんてみじめなんだ。 こんなとこで飢え死にしかけてる。
18. そうだ。 家に帰ろう。 帰って、お父さんに頼もう。 「お父さん。 すみませんでした。 神様にも、お父さんにも、罪を犯してしまって……。
19. もう息子と呼ばれる資格はありません。 どうか、雇い人として使ってください。」』
20. 決心がつくと、彼は父親のもとに帰って行きました。 ところが、家までは、まだ遠く離れていたというのに、父親は息子の姿を、いち早く見つけたのです。 『あれが帰って来た。 かわいそうに、あんな、みすぼらしいなりで……。』こう思うと、じっと待ってなどいられません。 走り寄ってぎゅっと抱きしめ、口づけしました。
21. 『お父さん。 ごめんなさいっ! ぼくは神様にも、お父さんにも、取り返しのつかないことをしでかしました。 もう息子と呼ばれる資格はありません……。』
22. ところが父親は、使用人たちにこう言いつけたのです。 『さあさあ、何をぼやぼやしている。 一番よい服を出して、これに着せてやれ! 宝石のついた指輪も、くつもだ。
23. あっ、それから、肥えた子牛を料理して、盛大な祝宴の用意も忘れんようにな。
24. 死んだものとあきらめていた息子が生き返り、行方の知れなかった息子が帰って来たのだから。』こうして、祝宴が始まりました。
25. ところで、兄のほうはどうでしょう。 その日も畑で働いていました。 家に戻ってみると、何やら楽しげな踊りの音楽が聞こえます。
26. いったい何事かと、使用人の一人に尋ねると、
27. 『弟さんが帰られたのでございますよ。 だんな様は、たいへんなお喜びで、肥えた子牛を料理し、ご無事を祝う宴会を開いておられるのです』と言うではありませんか。
28. 事情を聞くと、無性に腹が立ってきました。 中に入るのさえしゃくにさわります。 父親が出て来て、いろいろとなだめてみました。
29. それでも気持ちはおさまりません。 『私はこれまで、お父さんのために汗水流して働いてきたんですよ。 言いつけにだって、ただの一度もそむいたことはありません。 なのに、友達と宴会を開けと言って、子やぎ一匹くれたことがありますか。