2. ところで、カルメル村の近くにマオン出身の裕福な人がいて、大きな牧場を持っていました。 羊三千頭、山羊千頭がいましたが、ちょうどそのころ、羊の毛の刈り取りが行なわれていたのです。
3. 牧場主の名はナバルといい、妻はアビガイルという名で才色兼備の誉れ高い婦人でした。ところが、夫のほうは、カレブの子孫なのですが、けちで頑固で、行状もよくないときています。
15-16. ダビデ様に仕える人たちは、とても私どもによくしてくれまして、こちらが迷惑したことなど一度もございませんでした。 実際、あの方々が、昼も夜も、城壁のようになって、私どもと羊を守ってくださったのです。 おかげで、いっしょにおりました間中、何も盗まれずにすみました。
17. さあ早く、ここは、しかとお考えください。 このままでは、だんな様ばかりか、ご一家がひどい目に会うに決まっております。 だんな様はあのとおり頑固なお方ですから、だれもおいさめできないのです。」
18. アビガイルは大急ぎで、パン二百個、ぶどう酒の皮袋二つ、調理した羊五頭分、炒り麦六十リットル、干しぶどうの菓子百個、干しいちじくの菓子二百個を取りそろえて、ろばに積み込みました。
19. そして、若者たちに命じました。 「さあ先にお行き。 私はあとからついて行くから。」 もちろん、夫には何も告げませんでした。
20. こうして、ろばで山道を下って行ったところ、ばったり、こちらに向かって来るダビデに出くわしたのです。
21. ダビデは道々、こう思っていたところでした。 「あいつのために、どれほど尽くしてやったことか。 荒野で、わしらが羊の群れを守ってやったおかげで、一頭も失わず、盗まれもしなかったんじゃないか。 なのに、恩を仇で返しやがった。 あれほど苦労して得たものが侮辱だけだったとはな。
22. あすの朝までに、あの家の者どもは皆殺しだ。 もし一人でも生き残りがいたら、神様にこの身をのろわれてもかまわん。」
23. アビガイルはダビデを見るや、さっとろばから降り、その前に深々と頭を下げました。
24. 「ご主人様。 この度のことにつきましては、私がすべて非難をお受けする覚悟でございます。 どうぞ、私の申し上げることを、お聞きくださいませ。
25. ナバルは融通のきかないがさつ者でございます。 どうぞ、あの人の申しましたことなど、お気になさらないでください。 名前のとおり、愚か者なのです。 ところで、私は、お使いの方々とはお会いしておりません。
26. ご主人様。 神様はあなた様が血を流しに行くのをやめさせ、復讐を思いとどまらせてくださいましたので、神様にかけて、また、ご主人様の命にかけて、お祈りいたします。 あなた様に刃向かう者はすべて、ナバルと同じように、のろわれますように!
27. 実は、皆様方のために、贈り物を用意してまいりました。
28. 厚かましくもこうしてまかり出ましたことを、どうぞお赦しくださいませ。 神様は必ず、あなた様の子々孫々にまで及ぶ永遠の王国を建てて、お報いなさることでございましょう。 あなた様は、神様のために戦っておられるのですもの。 ですから、一生、決して道を踏みはずしたりなさいませんわ。
29. たとい、命をつけねらわれましても、まるで神様の守り袋の中にかくまわれているように、いつも安全に守られていらっしゃいます。 反対に、敵の命は、石投げの石のように、飛んで消えてしまうでしょう。
30-31. 神様がすばらしい約束をことごとく成し遂げて、あなた様がイスラエルの王に任ぜられました時、ご自分の判断で人を殺したりしたような覚えがあってはなりませんわ。 神様がこれらのすばらしいわざを成し遂げられたあかつきには、どうか、この私のことを思い出していただきとうございます。」
32. 「きょう、あなたを私に会わせるためによこしてくださった、イスラエルの神様に感謝しよう。
33. 全くりっぱな良識を備えた人だ。私を人殺しの罪から守り、自分の手で復讐しようとしていたのを思いとどまらせてくれて、ありがとう。
34. あなたに害を加えるのをとどめてくださった、イスラエルの神様にかけて誓うが、もしあなたが来てくれなかったら、ナバル家の者は一人残らず、あすの朝までに息の根を止められていたことだろう。」
35. ダビデはアビガイルの贈り物を受け取り、夫を殺したりしないから、安心して家へ帰るように言いました。
36. アビガイルが帰宅すると、ナバルはどんちゃん騒ぎの真っ最中でした。 ぐでんぐでんに酔っていたので、翌朝まで、ダビデに会ったことについては、ひと言も話しませんでした。
37-38. 朝になって、酔いもさめたナバルにきのうのことを話すと、彼は卒倒し、十日間というもの意識不明のまま寝込み、ついに息絶えたのです。 神様がいのちを取り去ったからです。